超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の建設候補地・北上山地を抱える岩手県一関市では、実験で放射性物質が生じることへの懸念が広がっている。推進派は「安全を確保できる」と理解を求めるが、住民の不安は払拭(ふっしょく)できていない。計画の意義や経済効果とともに、リスクへの説明責任も改めて問われている。

 一関商工会議所が1月10日に開いたILCの現状説明会。出席者から「放射能に恐怖を覚える」との意見や質問が相次いだ。東大素粒子物理国際研究センターの山下了(さとる)特任教授は「安全はもちろん、安心してもらえる説明を尽くす」と繰り返した。
 ILCは全長約20キロの直線トンネルを造り、加速させた電子と陽電子が正面衝突した際の反応を研究する。不安視されるのは、衝突実験後に生じる放射性物質のトリチウム=?=だ。
 トリチウムは電子や陽電子を吸収するビームダンプ内の水に生じる。東北ILC準備室は昨年9月の地元説明会で「長期間、外に漏らさず管理する」と強調したが、出席者から「東京電力福島第1原発事故で汚染水の対応に苦慮している。ILCでも発生するとは」と驚きの声が漏れた。
 他にもトンネルが将来、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に転用されるという臆測がある。推進派は「ILCのトンネルは海抜約100メートルの山腹。最終処分は地下300メートルより深く埋設するというので適さない」と否定する。
 リスクは昨年夏以降、知られるようになった。一関市民の有志らが昨年8月、計画を審議した日本学術会議に意見書を提出。市民団体「ILC誘致を考える会」も各地で学習会を重ねている。
 考える会の原田徹郎共同代表(75)=一関市=は「行政や議会が住民にリスクを説明せず、利点ばかり強調して推進してきたのが問題。誘致は地域の理解が大前提だ」と訴える。
 ILC計画がもたらす経済波及効果などへの期待は大きく、北海道、東北の7道県議会は昨年末までに誘致実現を求める決議を相次いで採択した。政府が国際交渉入りを判断する重要な局面が迫り、誘致運動は勢いづく。
 こうした時期に足元で不安が表面化したことに、東北ILC推進協議会の西山英作事務局長は「地域にリスクを説明するきっかけを頂いた。納得してもらえるよう対応を尽くしたい」と強調する。

[トリチウム]水素の放射性同位体で三重水素とも呼ばれる。半減期は約12.3年で弱いベータ線を出す。宇宙からの放射線が空気中の窒素や酸素と反応して生じるほか、過去の核実験や原発排水でも大量に放出されている。国の排出基準は水中での濃度限界で1リットル当たり6万ベクレル。生体に与える影響は放射性セシウムの約1000分の1。