◎(2)新政酒造(秋田市)/8代目当主 佐藤祐輔さん(44)

 「天鵞絨(びろーど)」「亜麻猫(あまねこ)」、そして「No.6(ナンバーシックス)」。いずれも新政酒造(秋田市)の日本酒だ。中でも大きな「6」を瓶に印刷した「No.6」は、斬新な見た目が開栓時の期待感を高める。

●6号酵母採取
 平成の時代、個性豊かな酒で業界に新風を呼び込んだ。先頭に立つのが2012年に8代目当主として社長に就任した佐藤祐輔さん(44)だ。
 新政酒造は幕末の1852年に創業した。1930年に清酒酵母「きょうかい6号」(6号酵母)を採取したことで知られる。現在も使われている酵母としては最古のもので、寒冷地での高級酒造りを可能にし、一時は業界を席巻した。
 「蔵に生まれたからといって無条件に継ぐのは面白くない」。東大を卒業し、フリージャーナリストとして活動した2000年代初頭は焼酎ブームのさなか。当時の佐藤さんに日本酒への関心はなかった。

●造るほど赤字
 転機となったのは二つの日本酒との出合いだった。「磯自慢」(静岡県焼津市)と「醸し人九平次」(名古屋市)。魅力に引かれて05年、東京にあった醸造試験場で1カ月半の研修に参加した。
 その後も独立行政法人酒類総合研究所(広島県)で1年間、研修生として日本酒をとことん学んだ。6号酵母の歴史的業績を知ったのも研修の中だった。「業界で新政を知らない人がいないことに驚いた」と振り返る。
 当時の実家は安価な普通酒をメインとし「造るほど赤字」の状態。在庫が積み上がり、経営は厳しい。研修期間を短縮して07年秋に故郷へ戻った。
 まず変えたのは酒造りだった。「伝統文化を再創造する」を理念に掲げ、添加物を使わない醸造手法への回帰を進めた。
 前例のない取り組みだが、使用は6号酵母1種類に絞った。全量を天然の乳酸菌を使う生〓(きもと)仕込みとし、ホーロー製だった醸造タンクの杉桶(おけ)への切り替えを進めた。無農薬栽培による酒米作りも手掛け、今年は10ヘクタールに広げる予定だ。

●合理化と真逆
 「単においしいにとどまらず、どんなポリシーで、どんな製法で造っているのかが見られている」。酒を通して日本文化を知ってもらうため、たどり着いたのが合理化と真逆の道だった。
 日本酒は1000年以上の歴史を持つ。五感と経験を頼りに、杜氏(とうじ)らが世界でもまれに見る複雑な発酵飲料へと磨き上げてきた。
 手間の掛かる伝統製法では、品質は造り手に左右される。「まだまだ技量が足りない。もっといける」。迎える新時代にも、日本酒の新たな可能性に切り込むつもりだ。(秋田総局・渡辺晋輔)

〓は酉へんに元