東京電力福島第1原発事故で福島県内から自主避難し、国家公務員宿舎に身を寄せた住民の退去期限が過ぎて1カ月になった。県は退去期限後も暮らし続ける住民に、家賃の2倍を「損害金」として請求する方針だ。都内の宿舎に暮らす女性(53)は取材に「移りたくても行き場がない」と苦境を訴えた。(福島総局・神田一道)

 高層マンションが林立するベイエリアの江東区。36階の国家公務員宿舎「東雲住宅」には、南相馬市やいわき市などから移り住んだ57世帯(4月1日現在)の自主避難者が暮らす。

 このうち49世帯は転居先が決まっておらず、女性もその一人。パートで働くシングルマザーで、会社員の長女(27)、就職活動中の次女(20)と3人で身を寄せている。

 第1原発から約31キロの南相馬市鹿島区出身。当時小学6年生だった次女と一緒に避難し、都内にいた長女と合流。避難所を転々とした後、2011年夏に東雲住宅に入居した。

 いつまでも住めるとは思っていない。都営住宅に4回応募したが、当たらなかった。家賃が高額な都内の賃貸住宅はパート勤めの収入では借りられない。手詰まり感を深める中、3月末の退去期限を迎えた。

 「都営住宅が当たるまで住まわせてほしい」と願うが、県からは速やかな退去を求められている。今後は家賃の2倍に相当する11万8000円を請求される可能性がある。「払える額ではない。都営住宅をあっせんするなど、県にはわれわれに寄り添った対応をしてもらいたい」と語る。

 県は宿舎の使用延長を認めない方針だ。県生活拠点課の菅野裕之主幹兼副課長は「宿舎の提供は17年3月末で終了し、経過措置として(低額な家賃での)2年間の入居継続を認めた。期限までに退去した世帯との公平性を考えると、引き続き住み続ける世帯を支援するわけにはいかない。倍率が低い都営住宅を選ぶか、金銭面で折り合える物件を見つけてほしい」と語る。

 原発事故から8年余り。2人の娘は東京の生活にすっかりなじんだ。「娘たちは東京を離れたがらない。戻ろうとすると、家族がばらばらになってしまう」と困惑する。

 収入や家族関係など自主避難者の事情は歳月を経て複雑化する。それでも一律に退去を求めようとする県の姿勢は、20年の東京五輪で「避難者ゼロ」を国内外にアピールしたいのかと女性の目には映る。

 「困っている住民を支えるべき人が、公務員宿舎から住民を追い出すなんて。東京五輪を成功させるという大義に、避難者は不都合な存在なのでしょうか」