13億超の人口を擁するインドは近年、急速な経済発展を遂げている。人口は10年以内に中国を上回って世界一に、経済規模は2030年代までに日本を抜いて世界3位に躍り出ることが確実視される。世界が熱視線を注ぐ巨大市場は日本の企業の新たな活路となるのか。国際協力機構(JICA)東北の地方マスメディア派遣で訪ねた東北の企業関係者の取り組みから日印経済の今、そして未来を探る。
(石巻総局・関根梢)

■石巻の技術で弱視治療

 きらびやかなショッピングセンター。そびえ立つ外資系ホテル。インド西部グジャラート州の主要都市アーメダバードは国内屈指のスピードで成長を続ける。

 一角にある真新しい市民病院の眼科に、日本の技術の粋があった。

 「次はこのゲームをやりたいな」。6歳男児が夢中で見詰めていた画面。裸眼では真っ白に見え、専用のメガネを着けるとゲーム映像が浮かび上がる。

 弱視訓練器「オクルパッド」は、石巻市の電子機器メーカー「ヤグチ電子工業」が、片目が弱視の患者らを対象に、北里大医療衛生学部(相模原市)の半田知也教授と共同開発した。視力が弱い方の目だけで映像を追うことで視力の発達を促す仕組みだ。

 同病院のハンサ・H・タッカ医師(60)は「低コストで楽しみながら続けられる画期的な治療法。在宅治療と組み合わせ、弱視に苦しむ患者をなくしたい」と期待を寄せる。

 同社は17年にJICAの中小企業向け支援事業の採択を受け、インド市場に乗り込んだ。近隣のスラムに住む住民を含め1日約300人を診察する市民病院と関係を築き、これまで40人以上が視覚訓練を受けた。
1000台販売目指す
 弱視は国籍や性別にかかわらず出生者の2~3%がなるとされる。インドの年間出生数は2500万人で日本の約25倍。「世界一ターゲットユーザーが多い魅力的な市場」。同社の最高技術責任者、石垣陽さん(43)は手応えを語る。

 販路として見込まれる富裕層向け私立病院は約2万カ所ある。同社は25年に1000台の販売を目指す。

 日本と全く異なる医療事情は、製品開発のアイデアの源泉にもなる。

 弱視は幼少期に治療を受ければ高い確率で完治する。一方、検診体制が未整備のインドで診断を受けられる子どもは一握りだ。

 低所得層の患者は病院までの交通費を工面できず、通院すらままならない。経済拠点都市ムンバイですら約4割の患者が治療を断念した。治療にこぎ着けても、正常な目をアイパッチでふさぐ従来の治療法はかぶれやアレルギー反応が出やすく、費用もかさむ。

 インド国内の課題解決に向け、同社はオクルパッドに続き、弱視の手軽な視機能検査器と在宅治療用の製品を開発。インド発の技術は日本でも好評で、検査器は年間約1000セットを売るヒット商品に成長した。

 石垣さんは「インド市場参入への障壁の一つは心理的な距離だ」と指摘する。輸入関連の制度変更は頻繁で、州政府ごとにルールが違うことも珍しくない。大切なのは信頼できるパートナー。同社の取り組みはその一つの解を示している。

[インドの経済成長]国際通貨基金(IMF)統計などによると、インドの名目国内総生産(GDP)は1998年以降の20年で6.3倍に増加し、現在は世界7位に躍進。在インド日本大使館などの調査によると、インドに進出する日系企業は18年時点で1441社。06年の5.4倍に急伸している。

■製造業振興秘める好機

 インド・デリー近郊の工業団地に工場を構えるSAIグループは国内有数のヘルメットメーカーを擁する。昨年、二輪車のヘルメット非着用を厳罰化する法改正があり、需要が激増。1日の製造個数は改正後の半年で3.3倍に伸び、現在は約500人の従業員が約1万個を製造する。

 「全ての注文に応えるには1日1万5000個の製造が必要。とても間に合わない」。同グループ最高経営責任者(CEO)のスミット・ドセジャ氏(46)はうれしい悲鳴を上げる。

 直面する課題は製造過程の効率化だ。部品の溶接や塗装は機械化されているものの、商品の組み立てや縫製は手作業に頼る。威力を発揮するのが、日本の製造業が培った高い生産性だ。

 同社は国際協力機構(JICA)が参画する中小企業向け育成プロジェクトに昨年10月から参加。日本人の専門家らの助言を受けながら改善に着手した。

 「トヨタ生産方式など新たな知見を得られた。従業員の意識改革も進みつつある」とドセジャ氏は手応えを語り、「インドは低コストで製造できる。技術力の高い日本の企業と手を組めばウィンウィンの関係を築ける」と連携に期待する。

 同プロジェクトでコーディネーターを務める稲葉滋子さん(40)=仙台市出身=は、インド工業連盟(CII)を拠点に日印連携の橋渡しを担う。

 稲葉さんは財閥系の大手を含む製造業約9000社が加盟するCIIのネットワークを生かし、商談会を企画。2月も東京で開催する。「日本企業の進出の鍵を握るのは、信頼できる現地パートナー企業の確保だ」と力を込める。
IT市場リード
 インドの経済成長を主導したのはITを中心とする3次産業だった。「インドのシリコンバレー」と呼ばれる南部の都市バンガロールは米国企業のシステム開発の一部工程を低価格で請け負う拠点として発展。アップルやグーグルも開発拠点を置き、世界のIT市場をリードする。

 一方、インフラ整備を伴う製造業は発展が遅れており、モディ首相は「メーク・イン・インディア」=?=をスローガンに製造業の振興に注力する。稲葉さんは「国内市場で生き残るため、日本の技術力を求めている」と現地企業のニーズを代弁する。

 日本国内のインドへの関心は東北を含む地方の中小企業にも広がる。大阪商工会議所などが昨年8月に開催したインドのビジネスセミナーには、100人を超える応募があった。

 「多くの課題を抱えるインドだからこそ生まれるイノベーションがある。新しい事に挑戦すれば日本の企業にも商機はある」。稲葉さんは巨大市場に秘められた可能性にチャンスの芽を見いだしている。

[メーク・イン・インディア]モディ政権が推進する産業政策。製造業の振興を核に外国資本からの投資を呼び込む。人口の約7割が暮らす農村部に製造業を定着させて雇用を創出し、経済格差の縮小を目指す。