宮城県気仙沼市の大島と本土を結ぶ気仙沼大島大橋が開通し、7日で1年となる。開通効果で前年から大きく伸びた客足を持続させようと意気込む島の観光業界に、新型コロナウイルスが暗い影を落とす。島内の市観光施設は本格営業延期を余儀なくされ、設備投資に踏み切った旅館経営者からは悲鳴が上がる。(気仙沼総局・鈴木悠太)

 「何か買い物ができると思ったのに、残念」

 5日、島の観光拠点に先月オープンした市の観光施設「気仙沼大島ウェルカム・ターミナル」のがらんとした商品棚を見て、家族で訪れた仙台市青葉区の主婦(68)がこぼした。

 ターミナルは現在、休憩スペースのみ利用可能で、島の魚介類などが中心の産直販売はウイルス感染拡大を受け見合わせている。5日に市内で初の感染者が確認され、営業開始の見通しはさらに不透明になった。

 隣接する商業施設で食事はできるが、土産物の販売はない。実質的に「素通り」する観光客も多く、産直販売を担う気仙沼大島地場産品出荷・販売組合の斉藤仁事務局長(56)は「リピーターを逃しかねないが、情勢を考えればやむを得ない」と嘆く。

 市観光課によると、2019年の大島の観光客数は60万人を超え、18年(9万3700人)の約7倍に上る見込みだ。2年目の春を迎え、今年はさらなる集客が見込まれていた。

 だが、気仙沼観光コンベンション協会などが市内全体の宿泊施設を対象に実施した調査では、先月9日までに回答した24施設で宿泊と宴会のキャンセルが延べ1万3000人を超えた。特に小規模な大島の旅館で打撃が深刻という。

 大島の旅館亀山荘は2月中旬、37年ぶりに館内の大規模改修に着工した。小松大介専務(43)は「橋が開通したから決断したのに。この先を考えると夜も眠れない」と頭を抱える。

 開通効果が続くと見越し、10年以上の返済計画で資金を借り入れたが、大型連休の予約帳簿はほぼ真っ白。小松専務は「明るい兆しが見えず、多くの支援を受けた震災の時よりも厳しい」と表情を曇らせる。

 旅館明海荘は、昨年訪れた車いすを利用する高齢者や障害者の声を反映し、エレベーターや多目的トイレを整備した。こちらも大型連休の予約帳簿はがらがらという。

 おかみの村上かよさん(54)は「泣きたい気持ちだけど、人の命に関わるので来てほしいとも言えない。頭に不安がよぎってはかき消して、何とか前を向こうとする毎日だ」と話す。

 「空白の時間」を、島の観光戦略を練り直す機会にすべきだとの指摘もある。気仙沼観光コンベンション協会の臼井亮(まもる)事務局長(46)は「大島は橋が開通しフェリー乗船という魅力を失った側面がある」と分析。「産直をはじめ物販の安定的運営、グッズ開発、亀山に頼らないオールシーズンの周遊など、お金を使ってもらえる仕組みを根本的に考える助走期間と捉えたい」と語った。