新型コロナウイルスへの日本政府の対応は遅く、専門家会議は2月中旬まで開かれなかった。安倍内閣は危機管理に強いとされてきたが、災害関係はおおむね初動に難がある。2018年の西日本豪雨時に安倍晋三首相ら自民党議員が開いた飲み会「赤坂自民亭」が典型例だ。

 東京五輪・パラリンピック開催の可能性に執着したのも一因となった。早期に見切りを付けて感染症対策に集中すべきだった。

 民主党政権下で起きた東京電力福島第1原発事故では、当時の菅直人首相が原発を現地視察したり、東電本店に乗り込んだりして首相が独走した。今回は側近ら首相周辺が突っ走り、首相は周辺に言われるがままのように見える。初動にまずさがあった点では共通するが、内実は対照的だ。

 歴代の首相からは難題に直面した際に「政治生命を賭けて」「内閣がつぶれてでも」といった言葉がよく出たが、安倍首相からは聞かない。政権維持が全てに優先し、官僚が書いた無難な原稿を棒読みするか質問をはぐらかすだけだ。この危機の中では当然、言葉に力が出ず、国民の心に響かない。

 全国一斉の休校要請や布製マスクの配布、全世帯への現金給付は、各省庁を束ねる役目の菅義偉官房長官を外して決めたように見える。西村康稔経済再生担当相が新型コロナの担当を務め、指揮系統がいびつだ。一枚岩が強みだった首相官邸チームの変容は、長期的な対処に悪影響を及ぼす可能性がある。

 未知の感染症との共存には国の積極的な関与が不可欠で、今後は「大きな政府」が志向されるはずだ。東日本大震災で復興庁が創設されたように、感染症対策専門の行政機関の設置も検討課題となるだろう。

 自治体は小池百合子東京都知事や吉村洋文大阪府知事らの頑張りが目立つが、メディアに登場しない知事らも無難に対処してきた。ただ、事態はまだ序盤。次の感染の波を抑えられるかで真価が問われる。

 冷え切った地元経済を今後どう立て直すかを考える上で、都道府県だけでなく政令市をはじめ市町村の役割をもっと議論すべきだ。例えば宮城県の場合、住民の経済生活を間近で見ている仙台市の役割は非常に大きい。

 感染拡大で緊急事態宣言が発令されたこともあり、自民党の改憲案4項目の一つ「緊急事態条項の新設」を入り口に憲法改正論議を進めようとする動きがある。新型コロナがさらに猛威を振るい、個人を監視して私権を制限する権威主義的な体制の方がリベラル・デモクラシーより有効に機能すると見なされれば、基本的人権をある程度制約すべきだとの声が強まるかもしれない。

 人の移動が飛躍的に拡大した現代は、新たな感染症のパンデミックが短い間隔で起こり得る。社会状況に応じた憲法の姿や、国と自治体の在り方を巡る議論は絶えず出てくるだろう。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちは過去に経験のない閉塞(へいそく)感に包まれている。戦後最大の危機とされるパンデミック(世界的大流行)は現在に何を突き付け、どのような未来をもたらすのか。5人の識者に聞いた。
(聞き手は報道部・若林雅人、横山勲)