東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働を巡り、村井嘉浩知事が「地元同意」を国に伝えてから2日後の11月20日。原発事故による甲状腺被ばくを防ぐ「安定ヨウ素剤」の事前配布説明会が女川町役場であった。

 対象の住民156人に対し、参加は4人。ヨウ素剤の効果などの動画を視聴し、服用上の注意などの説明を受けた。服用の目安は被ばくの24時間前から直後まで。早すぎても遅くても効果が薄まるとされる。

 「事故が起きたら皆パニックになる。タイミングを逃さず服用できるだろうか」。女川原発の近くに住む会社員高橋芳(かおり)さん(52)が表情を曇らせる。

 事前配布は2016年度に始まった。原発5キロ圏の予防的防護措置区域(PAZ)と、PAZを通って避難する「準PAZ」の40歳未満の人や妊婦らが対象。配布率は女川町約7割、石巻市約4割とばらつく。

 ヨウ素剤は広域避難とともに被ばく対策の柱だが、東京電力福島第1原発事故では十分に活用されなかった。宮城県は立地2市町と30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る5市町を中心に計28カ所で丸剤約156万個、ゼリー剤約2万包を備蓄。事故時に一時集合場所や避難退域時検査場所で配る。

 混乱の中で適切に配布できるのか。未就学児を抱える女川町の30代女性は「非常時は保育園や薬局でも入手できるようにしてほしい」と訴える。

 再稼働を推進する国は、30キロ圏内への事前配布拡大や、新型コロナウイルスを考慮した郵送配布といった新たな方針を打ち出す。自治体は対応に追われる。

 登米市は9町域のうちUPZに入るのは津山、豊里の2町域。同じ市内が30キロ圏で線引きされ、緊急時の対応が分かれる難しさを抱える。南三陸町は「複合災害による道路の寸断などがあれば配布は難しくなる」(総務課)と懸念し、事前配布する方向で調整する。

 「福島の事故を胸に刻みエネルギー政策を進める。事故が起きたら事業者と国が責任を果たす」。資源エネルギー庁の担当者は10月、再稼働の是非を巡る県議会の審議で力説した。だが、災禍の代償は「責任」であがないきれないほど大きい。

 9年8カ月を経た今も約3万人が福島県外で避難生活を続ける。高線量の帰還困難区域は7市町村計約3万3700ヘクタールに及ぶ。原発敷地内には放射性物質トリチウムを含む処理水がたまり続け、海洋放出が現実味を帯びる。

 「原発は古里を喪失するリスクをはらむ」

 元福島大学長の今野順夫(としお)さん(76)=福島市=は実感を込めて語る。元コープふくしま理事長として事故後、消費者の食事の放射性物質検査に携わるなど、原発が住民の安全、安心を脅かす現実と向き合ってきた。

 宮城県にも避難者2700人超が暮らす。福島県に接する丸森町では特産のタケノコの出荷制限が続く。福島第1原発から100キロ以上離れた色麻町は汚染牧草の処理に苦慮してきた。

 今野さんは女川町出身。岐路に立つ郷里の将来へ、警句を発する。「再稼働させるかどうかの判断は、慎重に慎重を期すべきだ」

 8カ月余の政治劇は幕を閉じ、たなざらしの課題が残った。むなしき「同意」を得て、女川2号機は22年度以降の再稼働へ向かう。